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愛が止まらない!映画フリークがお届けする #シネマフリーク “トムボーイ”

長引く自粛生活の影響で、ストリーミングサービスなどを利用したおうち映画が主流となった昨今、映画館で最新映画を観る機会がぐんと減ってしまった。おうちで好きな時に観られる手軽さもいいけれど、臨場感抜群の最新作品をシネコンの最新鋭の設備で観たり、映画好きたちが集うミニシアターの空気に包まれるという何にも変えがたい鑑賞体験はいつまでも忘れずにいたいと思う。そんな映画フリークなライターによる、今劇場で観てほしい作品を紹介してゆく新連載「CINEMA FREAK」。

第四回は、11歳の子供が繰り広げるスリリングでありながらも瑞々しく、眩しい真夏の大冒険が描かれた映画『トムボーイ』。

  • タイトル:『トムボーイ』
  • 原題:『Tomboy』
  • 監督:セリーヌ・シアマ
  • 出演:ゾエ・エラン、マロン・レヴァナ、ジャンヌ・ディソン
  • 配給:ファインフィルムズ
  • 2011年製作/82分/フランス
  • 9月17日(金)より新宿シネマカリテ他にて公開
  • アイデンティティーの目覚めに涙と笑いが込み上げる度 ★★★★★
  • こんな人におすすめ・・
  • 子供の心を忘れたくない人/アイデンティティー探求中の人/自意識に悩む人

2019年のカンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した女性監督セリーヌ・シアマによる長編2作目『トムボーイ』(2011)が制作から10年の時を経て、9月17日(金)よりついに日本でも公開する。本作もベルリン国際映画祭のパノラマ部門のオープニング作品として上映され、テディ賞を受賞した話題作だ。

主人公は、引っ越し先でひょんなことから「ミカエル」と名乗り、新たに知り合った友人たちとの間で男の子として過ごそうとするロール。タイトルから、トムボーイ(直訳するとお転婆でボーイッシュ)な女の子なんだろうと予想しながら観始めていたものの、「あれ、男の子なの?」「いや、やっぱり…」と少しずつ答えを広げてゆく緻密な演出に翻弄され続けてしまった。そんな観客を引きつけてやまない中性的な魅力を発揮しているのは、当時11歳のゾエ・エラン。彼女は本作で、第14回ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭で最優秀女優賞を受賞、第17回リュミエール賞新人女優賞ノミネートを果たしている。

© Hold-Up Films & Productions/ Lilies Films / Arte France Cinéma 2011-

5歳から12歳までのキャストが集まる撮影現場は、劇中で観られるような自然体な空気を大切に進行していったという。シアマ監督による、子供たちの集中力のリミットに合わせて注意深く練り上げられたカット割、丁寧な演出によってのびのびとスクリーンの中で生きる子供たちの演技は、ドキュメンタリーのような親密さで観客をスクリーンに引き込んでゆく。

© Hold-Up Films & Productions/ Lilies Films / Arte France Cinéma 2011-

ミカエルとして太陽のもとで無邪気にはしゃぐ姿、ロールとして両親の愛に包まれて、妹や妊娠中の母親を優しくいたわる姿はどちらも彼女の真の姿だ。嘘の罪悪感に苛まれながらも、男友達の真似をしてシャツを脱いだり、唾を吐いたり、新しい自分の中の一面を発見するたびに湧き上がる高揚感。自分への好意を寄せてくれる子に対しての純粋な反応。11歳という曖昧な年齢に立って見つめると、誰にでも起きうる感情なのではないかと改めて考えさせられる。

ジェンダーにまつわるアイデンティティーの問題は、ここ数年で多くの作品で題材として扱われてきたが、ほとんどがティーンエイジャー以降の主人公ばかりで、このように子供の世界を俯瞰することは少し新鮮に感じた。どうしても思春期以降に立ちはだかる問題を正面から捉えると、その問題に対して威圧感や嫌悪感を抱いてしまうものだが、まだ先入観を形成している途中段階の幼少期では、性別という記号に囚われずに一人の人間として新たな関係を築いていくことはそんなに難しいことではなかったように思う。そんな子供たちならではの暖かくピュアな視点が、作品のシリアスなパートを和らげる緩衝材のような役割を果たし、大人になってしまった私たちの心を真夏の太陽のように眩しく照らしてくれるはずだ。

© Hold-Up Films & Productions/ Lilies Films / Arte France Cinéma 2011-