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愛が止まらない!映画フリークがお届けする #シネマフリーク “ショック・ドゥ・フューチャー”

長引く自粛生活の影響で、ストリーミングサービスなどを利用したおうち映画が主流となった昨今、映画館で最新映画を観る機会がぐんと減ってしまった。おうちで好きな時に観られる手軽さもいいけれど、臨場感抜群の最新作品をシネコンの最新鋭の設備で観たり、映画好きたちが集うミニシアターの空気に包まれるという何にも変えがたい鑑賞体験はいつまでも忘れずにいたいと思う。そんな映画フリークなライターによる、今劇場で観てほしい作品を紹介してゆく新連載「CINEMA FREAK」。

第三回は、エレクトロミュージックの黎明期を生きた女性電子音楽家にフォーカスを当てた音楽青春映画『ショック・ドゥ・フューチャー』。

  • タイトル:『ショック・ドゥ・フューチャー』
  • 原題:『Le choc du futur』
  • 監督:マーク・コリン
  • 出演:アルマ・ホドロフスキー、フィリップ・ルポ、クララ・ルチアーニ、ジェフリー・キャリー
  • 配給:アットエンタテインメント
  • 2019年製作/78分/フランス
  • 8月27日(金)より新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開
  • 新時代の幕開けの音に心躍る度 ★★★★★
  • こんな人におすすめ・・
  • 燻る気持ちを解放したい人/電子音楽が好きな人/フレンチギャルに憧れる人


1978年。日本では YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)が結成され、電子楽器のパイオニアとして知られるローランド社が世界初のマイクロ・プロセッサーを使用したリズムマシン「CR-78 リズムマシン」を誕生させたエレクトロミュージックの歴史を語るうえで見過ごすことのできない事件の年。そんな1978年のパリを舞台に、未来的な音の響きに心を踊らせる一人の女性ミュージシャンとその友人たちによる革命前夜を描いた映画『ショック・ドゥ・フューチャー』が8月27日(金)より全国で公開する。

若⼿ミュージシャンのアナ(アルマ・ホドロフスキー)は、部屋ごと貸してもらったシンセサイザーで、依頼されたCM曲の制作にとりかかっていたものの、納得のいく音に出会えずスランプ状態。さらには機材も故障し、絶体絶命の窮地に追い込まれることに。そんな中、修理に来た技術者がたまたま持っていた日本製のリズムマシン「ROLAND CR-78」との運命的な出会いから新たな音楽の可能性をアナは確信するのだった。

©️2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

本作で、男性優位な当時の音楽業界で奮闘する若手ミュージシャンを演じるのは、巨匠アレハンドロ・ホドロフスキーを祖父に持ち、モデル・ミュージシャンとして活躍するアルマ・ホドロフスキー。起きがけそうそう、ラジオから流れる歌謡曲に「ダサい音楽」と吐き捨て、セローンによるスペーシーなエレクトロ・ディスコナンバー「Supernature」に合わせてノリノリで朝のルーティンをこなしていく。映像の4/3近いシーンでずっと同じTシャツを着続け、冒頭のTシャツ一枚で宇宙戦艦のコックピットのような巨大なシンセサイザーに向かっていく姿は、同じ女性として惚れ惚れする。パリジェンヌならではの洗練された気だるい雰囲気は、電子音楽に興味がなくてもこの作品に魅了されるポイントの一つ。

©️2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

もちろん、音楽オタクたちも納得の小ネタも随所に散りばめられている。部屋中に散在する名盤レコードの数々やレコードコレクターのおじいちゃんがレコメンドをする音盤のセレクトから並々ならぬエレクトロ・ミュージックへの愛が感じられる。それもそのはず、監督は日本でも知られている音楽ユニット「ヌーヴェル・ヴァーグ」の活動でも知られるマーク・コリンなのだから。

物語の中で映し出される当時の最新鋭の電子楽器から放たれる音との出会いのシーンの数々は、同様の経験や感情を大切に抱きしめてきた彼ならではの記憶が反映されているように感じた。それほど、瑞々しく、音が血管の中を駆け巡って覚醒するような衝撃が映像や音響から溢れ出す。まるで、フェスで予想外のとんでもない演奏と出会った時のようなハイになる感じ。そんな未知なる音との遭遇が丁寧に描かれているのが、本作最大の見どころと言えるだろう。

©️2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

エレクトロ・ミュージックを題材にした作品はあれど、ロックやジャズなど他ジャンルと比べても作曲者や演奏者に光が当たる作品は少ないという思いからこの映画の構想を練ったという彼は、ほとんど注目されてこなかった多くの女性の電子音楽家たちからインスピレーションを受けたとし、その賞賛の意がエンドロールにしっかりと刻み込まれている。

今でこそ、女性のシンガーソングライターが世界の音楽チャートを席巻し、見事な存在感を発揮しているが、男性の権力者たちの言葉に一喜一憂し、望まないスキンシップを苦笑いで交わしながらもがいてきた先人たちの努力と情熱が現代の音楽シーンへと繋がっていることは間違いないだろう。女性たちのエンパワーメントが高まる今こそ、これまで語られなかったエレクトロ・ミュージックの歴史の一端を大音量とともに全身で感じてみたい。

©️2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films