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愛が止まらない!映画フリークがお届けする #シネマフリーク “恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜”

長引く自粛生活の影響で、ストリーミングサービスなどを利用したおうち映画が主流となった昨今、映画館で最新映画を観る機会がぐんと減ってしまった。おうちで好きな時に観られる手軽さもいいけれど、臨場感抜群の最新作品をシネコンの最新鋭の設備で観たり、映画好きたちが集うミニシアターの空気に包まれるという何にも変えがたい鑑賞体験はいつまでも忘れずにいたいと思う。そんな映画フリークなライターによる、今劇場で観てほしい作品を紹介してゆく新連載「CINEMA FREAK」。

第二回は、シュールなビジュアルとアップテンポな掛け合いが癖になる『恋の病 〜潔癖なふたりの ビフォーアフター〜』。

タイトル:『恋の病 〜潔癖なふたりの ビフォーアフター〜』
原題/英題:『怪胎/i WEiRDO』
監督:リャオ・ミンイー
出演:リン・ボーホン、ニッキー・シエ
配給:エスピーオー、フィルモット
2020年製作/100分/台湾
8月20日(金) シネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開

クセつよ主人公たちの不器用な恋愛模様にハラハラする度 ★★★★★

こんな人におすすめ・・
カラフルでシュールな世界観が好きな人/普通の恋愛映画に飽きてきた人


OCD(強迫性障害)とは、感染症による世界的なパンデミックも後押しして、ここ数年世界中でますます増加の傾向が見られる不安障害のひとつ。そんな誰しもに起こりうる症状を、コミカルかつ色鮮やかに描いた台湾発のラブストーリー『恋の病 〜潔癖なふたりの ビフォーアフター〜』が8月20日(金)より劇場公開する。

主人公のボーチン(リン・ボーホン)は、重度の潔癖症。一般的な社会生活を送ることができず、外出するのは毎月15日のみ、装備は防塵服にゴム手袋とマスクという徹底ぶり。そんなある日、いつものスーパーマーケットに向かう電車の中で、自分と同じ格好をした潔癖症と窃盗症を患う女性・ジン(ニッキー・シエ)と出会うのだった。

©2020 Activator Marketing Company / MAN MAN ER CO., LTD / Taiwan Mobile Co., Ltd.

自分と同じ価値観を持った人間と出会えることはそう多くない。特に、日常生活に支障をきたすほどの強いこだわりを共有できるふたりが出会うことは、誰だって偶然ではなく運命と呼びたくなるはずだ。これまでの人生において「自分は一生、他人と隔絶してひとりぼっちで生きていくのだ」とずっしりとした孤独感を抱えていたふたりにとってもその感動はひとしお。これから先、誰にも邪魔されずにふたりだけのルールが存在する心地よい世界でずっと一緒にいられると思っていた矢先に、運命の歯車が狂い出す。

アジア映画で初めて全編iPhoneで撮影されたことで大きな話題を呼んだ本作。監督はこれまで短編映画やMV、CMなどで活躍してきたリャオ・ミンイー。「恋は盲目」をテーマのひとつに、「恋の約束と固執」を描いた本作は高い評価を受け、世界中の映画祭で数々の賞を受賞した。また、新人監督作品ながら、台湾アカデミー賞とも呼ばれる金馬奨で、新人監督作品ながら最優秀主演男優賞や最優秀主演女優賞を含む6部門でノミネートされるなど、台湾国内でも大きな話題を呼んでいる。

潔癖症であり、外出を避けるため自宅で作業ができる翻訳業で生計を立てながらも、パソコンのタイピングが異常に苦手で仕事に支障を来しているという、かなり風変わりな青年ボーチン役を演じたのは、日本でも映画『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』(2019)や、ドラマ「金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件」(NTV/22014)にも出演していた、リン・ボーホン。潔癖症である上に、スーパーマーケットで万引きを重ねてしまう窃盗症の女性ジン。しかし、タイピングが得意でボーチンの不得意なことを自分が補えるという運命的出会いを果たすという難しい役どころを、これまで多くの演技賞を受賞してきた実力派女優ニッキー・シエが演じる。

©2020 Activator Marketing Company / MAN MAN ER CO., LTD / Taiwan Mobile Co., Ltd.

一見、シュールなビジュアルにグッと引き込まれて本編を見てゆくと、どこかフランス映画のような間合いや色使いにぐいぐい惹かれてしまった。前半では、1:1のアスペクト比を使い、他人から疎外されたふたりだけが中心の世界を捉えている。とあるきっかけに合わせてふたりの世界が一変してゆくシーンでは、フルワイドへと変化。登場人物の心情に合わせてスクリーンを操る編集は、グザヴィエ・ドランの『Mommy/マミー』(2014)やA24が製作した『WAVES』(2020)にも通じる物語の繊細さを見事に表現している。

©2020 Activator Marketing Company / MAN MAN ER CO., LTD / Taiwan Mobile Co., Ltd.

本作の後半では、次第にすれ違ってゆく男女の物語へとシフト。前半のコミカルな要素は影を潜め、苛立ちと不安がふたりを支配してゆく様は、多くの男女にとって既視感のある状況と言えるかもしれない。まさに “恋は盲目”。外の世界を知ることで人の価値観というのはよくも悪くもどんどん変化を遂げてしまうのだ。

物語の終盤、ジンが語る「愛している時は相手の欠点も長所になる。愛がなくなれば——欠点は致命傷となる。」の台詞にハッとさせられた。好き・嫌いでは分けられない男女間の感情。その普遍的なテーマをここまで色鮮やかに描いた作品がこれまでアジア映画の中であったのだろうか。あまり注目されることの少ないジャンルだからこそ、この機会に、アジア映画の現在地をぜひスクリーンで体感してみてほしい。

©2020 Activator Marketing Company / MAN MAN ER CO., LTD / Taiwan Mobile Co., Ltd.

illustration : ツチダマホ