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愛が止まらない!映画フリークがお届けする #シネマフリーク “プロミシング・ヤング・ウーマン”

長引く自粛生活の影響で、ストリーミングサービスなどを利用したおうち映画が主流となった昨今、映画館で最新映画を観る機会がぐんと減ってしまった。おうちで好きな時に観られる手軽さもいいけれど、臨場感抜群の最新作品をシネコンの最新鋭の設備で観たり、映画好きたちが集うミニシアターの空気に包まれるという何にも変えがたい鑑賞体験はいつまでも忘れずにいたいと思う。そんな映画フリークによる、今劇場で観てほしい作品を紹介してゆく新連載「CINEMA FREAK」。

第一回は、スリリングな復讐劇とロマコメが並走する「プロミシング・ヤング・ウーマン」。

タイトル:「プロミシング・ヤング・ウーマン」
原題:「Promising Young Woman」
監督:エメラルド・フェネル
出演:キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリー、クランシー・ブラウン、ジェニファー・クーリッジ、ラバーン・コックス
配給:パルコ
2020年製作/113分/PG12/アメリカ

完全無欠、不滅のシスターフッド度 ★★★★★

こんな人におすすめ・・
とにかくスカッとしたい人/曲がったことが大っ嫌いな人/ポップな世界観が好きな人


“送り狼” という言葉は万国共通だ。国語辞典では、「親切を装って女性を送っていき、途中ですきがあれば乱暴を働こうとする危険な男」と解説されるこの行為が、この復讐劇の起点となっている。主人公のキャシー (キャリー・マリガン) は、親友の身に起こったあるレイプ事件をきっかけに成績上位の医大生であった “プロミシング・ヤング・ウーマン=前途有望な若い女性” というキャリアを捨てて、復讐に生きる女性へと変貌。頭脳明晰な彼女は、夜ごとバーで泥酔したフリをして、自らに課したミッションを遂行していた。

© Focus Features

ネタバレ厳禁のスリリングで秀逸なストーリーテリングは、本作で長編監督デビューを飾ったエメラルド・フェネルによるオリジナル脚本。エメラルド・フェネルは、人気ドラマシリーズ「ザ・クラウン」や「リリーのすべて」(2015) にも出演する実力派女優でもあり、Amazon Primeで放送中の「キリング・イヴ/Killing Eve」では脚本と製作総指揮で参加し、プライムタイム・ エミー賞脚本賞(ドラマシリーズ部門)にノミネートされるほどのマルチな才能の持ち主だ。アカデミー賞を筆頭に多くのショーレースで絶賛を受けたこの物語は、これまで多く描かれてきた激しい暴力やセクシュアルを見せ場としたリベンジ作品とは異なり、深夜のクラブやバーでたびたび見かける光景をそのまま脚本に取り入れることで、観客の想像力を掻き立てることに成功した。ある人は心理戦をうまく使いこなすキャシーのスマートな鉄槌にスカッとし、ある人は自身の過去を振り返り、身につまされる思いを感じるのではないだろうか。そんなエメラルド・フェネルの才能あふれる脚本に、主人公キャシーを演じたキャリー・マリガンは出演を快諾 (製作総指揮も兼任)。さらに、マーゴット・ロビーも製作に名を連ねるなど、ハリウッドの大女優達が次々と賛同し、時代の潮流にマッチしたウーマンパワー炸裂のホットな作品へと仕上がっている。

©2020 Focus Features

さて、物語は進み男性社会への復讐というライフワークだけが生きがいとなっていたキャシーの元に大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアン(ボー・バーナム)が現れる。この偶然の再会をきっかけに、キャシーが大学時代に喪失してしまった恋ごころが目覚め、同時に彼から知らされる新事実が元で新たな復讐の旅が始まってゆく。スタンダップコメディアンとしても活躍するボー・バーナムとのウィットに富んだ会話劇やスウィートな空気が充満するダンスシーンは、キャシーの心の氷を溶かしていくようにも見えるが、その裏でキャシーの復讐劇は第二フェーズへと発展。

© Focus Features

ターゲットは「同調圧力に屈した女友達」、「“前途有望な青年”をかばって事件を曖昧にした学部長」、「加害者の罪を揉み消した弁護士」といった過去の事件に関わる人物達。これらの人物像はレイプ事件に関わらず、いじめや様々なハラスメントの現場でもよくみられるものだと思う。「自分はただ見ていただけで何も悪くない」「いじめはいじめられる子にも原因がある」「相手の将来のことをちゃんと考えて」といった心ない他人事な言葉の数々は、きっといまこの瞬間にも世界中で湯水のごとく流れていることだろう。

©2020 Focus Features, LLC.

ひとつの事件を軸としながらも、復讐の矛先を広げることでより一層の共感と戦慄を生むシナリオ、そしてこのシリアスな題材をブラック・ユーモアたっぷりのコメディとして描き出す演出力には本当に脱帽だ。可愛くてポップな衣装やセットデザイン、劇中歌のコントラストも物語をキャッチーに楽しむために趣向が凝らされており、甘いキャンディのように観客を惹きつけた途端に衝撃のラストへと引きずり込んでゆく本作は、相手が油断した隙を突いて確実に親友の無念を晴らしていくキャシーの姿と重なる。その理由は、作品を作り上げた制作陣とキャラクターが連帯し、強い信念のもとでシスターフッドを強く見せつけているからにほかならないはず。溢れ出すエネルギーが観るものに様々な解釈を与えるこの作品、ぜひ鑑賞後のアフタートークまで存分に楽しんでほしい。

© Universal Pictures

illustration_マホツチダ