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FRESH RECORDS vol.3 HIBI hizioka “メイド・イン・フェイクパラダイス!”

才能が芽吹く前のひとびとを発掘し紹介していく本企画。第3回目となる今回は、作家、蒐集家のHIBI hizioka(ヒジオカ ハイビ)にフォーカス。
彼女が掲げる言葉『フェイクパラダイス』とどこか奇妙なその作品群。それらの関係性と『フェイクパラダイス』の意味、そして彼女がそこへ行き着いた経緯とは?

Text_Ririko @rkbysiii
写真家、DJ。多摩美術大学大学院在学中。ポートレートを中心に写真作品を制作。

ROOM and PARADISE(2021)
P40号
初めて一人暮らしする時、自分の家を持てる感動がすごくて、「どう帰りたい家にするか」「どれだけ居心地のいいものにするか」を散々脳内シミュレーションした

Ririko:ハイビの作品としては個人的には「ROOM and PARADISE」が印象的なのだけど、あれはどういうコンセプトで作っていたの?

ハイビ:私怨みたいなところある。

Ririko:私怨!?

ハイビ:ママがナイトクラブのオーナーで、店舗と家は別ではあったんだけど、母子家庭だったのもあってママにつきっきりで生活してた。そうすると、ほぼ店に寝泊まりみたいな状況。自分の荷物を広げて、店の営業が始まると全部片付けるの繰り返し。だからいわゆる「実家」みたいな感覚がなかった。
それもあって、「家」というものへの執着が強くなった。初めて一人暮らしする時、自分の家を持てる感動がすごくて、「どう帰りたい家にするか」「どれだけ居心地のいいものにするか」を散々脳内シミュレーションした。

でも、いざ住むと賃貸特有のボコボコの壁紙と明るい蛍光灯がなんだかすごく気持ち悪くて嫌だった。そのまま住んではみたけど、やっぱり落ち着かないし自分じゃない何かに包まれているような感覚も強くて…。だから、照明を変えて、壁はできるだけ埋め尽くす。それを数年かけて作り上げ続けた。部屋は住人の体内。だからこそ手をかけることが大切だと思う!!…退居のときやばいけど…。

Ririko:その家に対する感覚が結構作品には大きく働いたということ?

ハイビ:そう。それで本題に戻るけど、この作品は平面作品を取り囲む空間が印刷された紙で埋め尽くされてるのね。で、その印刷の内容は、自分の今住んでる部屋の壁の一部を拓とったやつなの。

Ririko:どうやってとったの…?

ハイビ:ベッド横の壁に、白い絵の具を塗って、グレーの紙をくっつけて剥がした!

Ririko:パワー感じる。

ハイビ:で、それを反復して貼ることで、賃貸の真っ白くて自分の匂いのしない壁紙を演出した。今やヤニであったかい色に染まったけど。満足満足。

Ririko:退居が大変だ。じゃあ、実際に描いてあるモチーフについてはどういうセレクトなの?

ハイビ:静物画って大抵生き生きとした花や果物などが描かれることがほとんど。それらは当時本物を持ちこんで描いていたけど、今や「それモチーフの小物」がいくらでも手に入る。だから、この作品では「本来の姿を変えさせられたかつての静物画の常連たち」を主にピックアップした。 例えば、りんご。この中ではりんごの形をしたマグカップ。マグカップもまたりんごに変えさせられているけど、マグカップはその機能を奪われていない。これが超フェイクパラダイス!って思った。

Ririko:確かに。一見、可愛らしいのに、一個一個よく考えたらすごく不気味だね。

ハイビ:そう。絵の雰囲気もあって展示した時には「可愛い」と言われることも多かったんだけど、その愛玩的な扱いに寄れば寄るほどフェイクパラダイスの「フェイク」が強まる感覚があった。

Ririko:ちょっと気になってはいたんだけど、なんでこんな真っ白な感じなの?

ハイビ:やっぱり最初に話した空間かなあ。入居した時の煌々とした蛍光灯の違和感を表現したというか。昔の静物画は日光、ランプとか「情緒」がある感じだった。 でも、フェイクパラダイスであるモチーフが照らされるならやっぱ白い蛍光灯に照らされてるのがより現代的かなって。そして何より、静物画が身近なものを描くものなら、今の私が描く静物画はこれ!という感じ。

Ririko:さっきから出てきている”フェイクパラダイス”っていうワード、これは自己紹介でも説明として入ってるけど、これはどういう考えから来た概念なの?

ハイビ:パラダイスって、私が思うに「架空のもの」だと思うんだよね。でも、その「架空のもの」を作るには原風景とか以前の記憶が必要になるはずで、何もないところから生まれることはないと思ってる。その原風景や記憶っていうのに対して、宗教などの影響だけではなく、「もっと根源的なものって何だ?」ってとこを深掘りしたいんだよね。

Ririko:原風景か。確かに、理想の〇〇が生まれるには、そもそもの前提が必要だもんね。

パラダイスってもう観念的な精神世界なんだよね。だからわからない事ばっかり!漠然と求められている観念でしかない

ハイビ:そう、後、パラダイスについて語ると、「ディストピア」「ユートピア」も関わるわけだけど、まずこの二つは常に一緒にあるものだと思うのね。なんとなく、『ドラえもん』で描かれていたような近未来の絵を想像して欲しいんだけど、「ユートピア」は私が思うに、管理社会=全部揃っていて何をするにも円滑な社会だと思っている。ディストピアは、そのユートピアの景色の中に見えない空間や裏路地があって、もしかしたらそこには暴力がはびこっているかもしれないような。そんなイメージ。

ただ、ディストピア、ユートピアって感じの景色は意識すればどこでも観れるけど、パラダイスってもう観念的な精神世界なんだよね。だからわからない事ばっかり!漠然と求められている観念でしかない。そしてパラダイス自体、一体なんなんだ。

宗教で生まれた概念だけど、じゃあ宗教がパラダイスのイメージを作る以前からパラダイスの幻想を抱くことはなかったの?宗教はどの様にしてパラダイスのイメージを抱いたの?旧約聖書でアダムとイヴがいた場所はパラダイスとされているけど状況はユートピア。じゃあパラダイス=ユートピアなの?日本語訳だと楽園だけど、その認識は本当にあってるの?まだまだ出てくるよ。自分で言ってるのに頭カチ割れそう。

Ririko:ドツボにはまっていく…

ハイビ:単純に合理的に片付けることってできちゃうけどつまらんじゃん? わからなくて面白いから作品を作っているわけだけど。その作品を作ったり、パラダイスについて考えることのきっかけが、消費社会で量産される、パラダイスのイメージをまとったものだったり。例えば「ROOM and PARADISE」で描いたモチーフとか!

Ririko:なるほど!確かに謎にパラダイスのイメージあるよねそういうのって…。

ハイビ:でしょ。あとは街並みとかもわかりやすいかも!フィールドワークとして街や住宅街で見かけたヤシの木の写真撮って集めてるんだけど、ヤシの木って演出の要素がすごいでかいと思う。近所の景色でもヤシの木あれば南国っぽく見えるんだよね。実際そこら中に生えてる。本当ヤシだらけ。なのに南国の風格を醸し出せるの意味わかんないよ。ヤシの木にそもそもの先入観があるとはいえ、よく幻想を保っていられるなあ…。

Ririko:あ〜、それこそ”フェイクパラダイス”的なことか

ハイビ:まあね〜!てか、精神世界が〜って難しい風な事喋ってたけど、実際面白がってる節が強い!あれなんかおかしくね?みたいなノリで。

Spiritual FRAME(2019)

ハイビ:私は小さい頃から蒐集癖があって、ご当地品からゴミみたいなものまで色々集めてるんだわ。そして、この作品も蒐集癖の延長線上にある。観光地の土産屋にある額、私は「ご当地額」って呼んでるんだけど、ハワイのご当地額を「オフハウスで!」見かけて、そこから着想を得て作った。オフハウスで買ったってのがアツい。ご当地額が何を額装してもご当地の写真に仕立て上げてしまう事に気づけたのはオフハウスで買ったからだと思われる。観光地から離れた場所だからね。他県の土産菓子がイオンで買えるのと同じ。てかオフハウス大好き。

Ririko:オフハウスはいいよね、なんでもあるし

蒐集物の一部。全て中古で購入した物。
ギャルがデコってるのって、オブジェみたいな物にじゃなくって必需品にデコってるイメージなんだよね

ハイビ:これが私の血と汗と涙と金の結晶だわ〜。

Ririko:すごい部屋と物量。

ハイビ:この通りたくさん物を集めているヨん。安物ばっかだから泥棒入ったとしても困惑させちゃうね! ペットボトルや空き缶、ビラなど、お金が無い時はお金がかからない物を集めていて、そういった広告物を眺めたりしているのが楽しい。装飾物にも興味があって、特にチープな物が好き。そこからデコに行き着いて、デコられたものやラインストーンの蒐集をしてたの。それで、デコについて調べてみたらネイルから始まったらしくて、ネイリストが副業で「デコ電」を作り初めたらしい。 そんで、「デコ電」って言ったらやっぱギャルでしょ!ってなわけでこんな作品も作った。

DECO my EASEL(2018)

Ririko:懐かしさ感じる!

ハイビ:ギャルがデコってるのって、オブジェみたいな物にじゃなくって必需品にデコってるイメージなんだよね。手鏡とか、それこそケータイ電話とか。それで個性を見せるみたいな。だから私も私の必需品にデコった。それがイーゼル。絵描きなんで!

しかも、ギャルのデコに感じた特性として、自分が見える面よりも人から見える面に気合い入れてるなって思って。だから私も片面を念入りにデコった。制作中は過酷で、デコの洗礼を受けた気持ち。なんせ2㎜のラインストーンを主にぽちぽち貼ってたから終わりも見えないし、休憩でトイレ行った時には指の感覚がおかしくなっていて、スマホを便器の中に放り投げちゃった。

Ririko:スマホの無事を祈る。

ハイビ:駄目でした。

Ririko:駄目だったかあ。

Ririko:最後になるけど、今後何やっていきたいとかはある?

ハイビ:展望ねぇ…音楽が好きだから、ジャケットのアートワークをやりたい。3枚しか経験無いけど楽しかった。あと、個展を開きたい!作品の個展は勿論、あと蒐集した物でコレクション展も開きたいなぁ。

Shining Fog Bar
バンド QPLO 1st single(2020)
S0号
Parallel Voyage!
バンド QPLO 2ndEP(2020)
S0号

作家、蒐集家。平面作品を中心に制作、活動。

“人は生まれる前にすでにみた楽園の原風景を追い求め形にしているのではないだろうか。私はそんな偽の楽園に奇妙、不気味、そして愛おしさを感じ、蒐集活動をしている。いわば「フェイクパラダイスコレクター」である。そして、その偽の楽園が孕む哀愁を嗅ぎつけたときに感じる価値に惹きつけられ、新たな楽園像を自分なりに創造する「メイド・イン・フェイクパラダイス!」。それが私のテーマである!”